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仙台高等裁判所 昭和44年(く)15号 決定 1969年7月16日

申立人 H・Y子(昭二四・一・二五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の理由は、別紙のとおりである。

記録によると、申立人が頭書保護事件により二三日間拘禁されたこと、右保護事件について仙台家庭裁判所は申立人を保護観察に付する旨の決定をしたところ、法定代理人から抗告の申立がなされ、仙台高等裁判所は原決定を取り消し原裁判所に差し戻す旨の決定をした結果、同家庭裁判所は更に審理して結局非行なしとの理由で申立人を保護処分に付さない旨の決定をしたことが認められる。

ところで、刑事補償法による補償の請求ができるのは、同法一条に定める場合に限られるのであつて、途中抗告審たる高等裁判所の判断を経由したからといつて、少年保護事件が刑事訴訟法の手続によつて審判されたものということはできないし、少年法二三条二項の決定は、その理由が非行なしとされた場合であつても、それが刑事補償法にいう無罪の裁判等にあたらないものであることも明らかである。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、申立人が頭書保護事件について刑事補償の請求をすることは許されないのであつて、その請求を棄却した原決定は正当である。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法四二六条一項により本件抗告を棄却することとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畠沢喜一 裁判官 阿部市郎右 裁判官 大関隆夫)

別紙

一、申立人からの刑事補償請求に対し仙台家庭裁判所は同庁昭和四四年少ロ第一〇〇一号事件として審理した結果、昭和四四年七月七日申立人の請求を棄却する旨の決定をなした。

二、しかし少年法による保護処分をうけた者が抗告手続の結果不措置の決定をうけた場合は刑事訴訟法の手続による無罪の判決があつた場合に準じて刑事補償をなすべきものと考える。

三、何となれば少年法は、少年の保護のために制定されたものであるが、少年法による拘束は刑事訴訟法による拘留とその少年のうける苦痛に於いて何等異なるところがなく、又措置の決定は刑事訴訟法による起訴と異るところがない。依つて原決定を取消されたく即時抗告をする。

参考 一

即時抗告の申立

宮城県黒川郡○○町○○字○○××番地

申立人 H・Y子

右代理人弁護士 大川修造

仙台家庭裁判所 昭和四四年少ロ第一〇〇一号

刑事補償請求事件の即時抗告

(決定書送達の日 昭和四四年七月九日)

申立の趣旨並に理由

一、申立人からの刑事補償請求に対し仙台家庭裁判所は、同庁昭和四四年少ロ第一〇〇一号事件として審理した結果、昭和四四年七月七日申立人の請求を棄却する旨の決定をなした。

二、しかし少年法による保護処分をうけた者が抗告手続の結果不措置の決定をうけた場合は刑事訴訟法の手続による無罪の判決があつた場合に準じて刑事補償をなすべきものと考える。

三、何となれば少年法は、少年の保護のために制定されたものであるが、少年法による拘束は刑事訴訟法による拘留とその少年のうける苦痛に於いて何等異なるところがなく、又措置の決定は刑事訴訟法による起訴と異なるところがない。

依つて原決定を取消されたく即時抗告をする。

昭和四四年七月一二日

右抗告代理人 大川修造

仙台高等裁判所 御中

参考 二

原審決定(仙台家裁 昭四四(少ロ)一〇〇一号 昭四四・七・七決定)

主文

本件請求を棄却する。

理由

本件刑事補償請求の要旨は「請求人は同人に対する仙台家庭裁判所昭和四三年少第二〇七八号、現住建造物放火保護事件につき、同裁判所において昭和四四年一月二〇日非行なしとの理由で保護処分に付さない旨決定されたが、同人は右事件のため昭和四二年一二月五日逮捕されてから同年一二月二七日観護措置取消決定がなされるまで二三日間にわたる拘禁を受けているので刑事補償法に基き一日金一、三〇〇円の割合で合計金二九、九〇〇円の刑事補償金の交付を求める。」というのである。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

本件記録並びに関係記録を精査すると、請求人は現住建物放火被疑者として昭和四二年一二月五日司法警察員によつて、通常逮捕され、同月七日当裁判所に送致されて現住建造物放火保護事件として係属し、直ちに観護措置決定がなされ、同月二七日同決定取消により鑑別所を出所するまで合計二三日間身柄を拘禁されたこと及び右保護事件は昭和四三年四月八日仙台保護観察所の保護観察に付する旨決定されたが法定代理人の抗告申立がなされ、仙台高等裁判所は同年一一月二八日原決定を取消し事件を原裁判所に差し戻す旨決定したので、再び当裁判所において審理することとなり、その結果昭和四四年一月二〇日非行なしとの理由で少年を保護処分に付さないとの決定がなされたことが認められる。

そこで請求人に対し刑事補償をなすべきか否かを検討するに、刑事補償法第一条によれば、刑事訴訟法による通常手続又は再審若しくは非常上告の手続において無罪の裁判を受けた者が同法、少年法又は経済調査庁法によつて未決の抑留又は拘禁を受けた場合にはその者は国に対し補償を請求できると定め、更に同法二五条により刑事訴訟法により免訴又は公訴棄却の裁判を受けた者はもし免訴又は公訴棄却の裁判をすべき事由がなかつたなら無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるとき国に対して補償を請求できると定め、未決の抑留又は拘禁による補償の要件を刑事手続における無罪並びに免訴および公訴棄却の一定の場合に限つて規定しているのであり、家庭裁判所における少年を保護処分に付さない旨の決定は刑事手続とは理念を異にする少年保護手続においてなされるものであつて、仮に保護処分を不用とする理由が非行事実なしとされた場合でも、刑事手続における無罪の裁判と同旨することはできないから刑事補償の対象とはならないものと解さざるを得ない。

よつて本件請求は理由なきものと認め刑事補償法第一六条後段によりこれを棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判官 千葉庸子)

参考 三

刑事補償請求の申立

宮城県黒川郡○○町○○字○○××番地

申立人 H・Y子

仙台市北一番丁八一番地

右代理人弁護士 大川修造

申立の趣旨

申立人に対する刑事補償として金二九、九〇〇円を支払うこと。

の裁判を求める。

申立の理由

一、右申立人は、現住建造物放火保護事件で、昭和四二年一二月六日御庁に送致され御庁昭和四三年少第二〇七八号事件として審理された結果、昭和四四年一月二〇日申立人に非行なしとして保護処分に付さない旨の決定がなされた。

二、申立人は右事件に於いて昭和四二年一二月五日吉岡警察署に逮捕されてから同年一二月二七日観護措置取消決定がなされる迄の間二三日間勾留並びに観護措置による身体の拘束をうけた。

三、依つて右二三日間の刑事補償として一日金一、三〇〇円の割合による申立の趣旨記載の金員の支払を求めたく本申立とする。

昭和四四年五月二八日

申立代理人 大川修造

仙台家庭裁判所 御中

編注

本件申立ての現住建造物放火事件の経過

1 原決定 仙台家裁 昭和四三年四月八日保護観察 抗告申立

2 抗告審決定 仙台高裁 昭和四三年一一月二八日 取消し差戻し(月報二一巻一〇号一三八頁参照)

3 差戻審決定 仙台家裁 昭和四四年一月二〇日不処分(非行なし)(月報二一巻一〇号一四五頁参照)

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